短歌読みます、うたあつめ。

拝見した短歌への、返歌や感想を書く、公開ファンレターです。

RE 思い出すことは何もない故郷には海はなかった なかったのにな

連作「ない思い出が懐かしい」を拝読しました。

連日公開ファンレター書いてます。お恥ずかしい。でも、だって、ええっと、好きな作品みたら書きたいじゃないですか……。いいわけはこのくらいにして。

連作って、短歌が一枚の写真だとすると、写真を組み合わせて、スライドショーまたは動画のようなことができるのですね。とても興味深いです。

3首引かせて頂きます。

 

あとで辛くなるだろうから潮の匂い 君とこなくて良かったと思う

 記憶と香り(匂い)って不思議な結びつきをしませんか。J-POPとかで「君の匂い」みたいな歌詞ありますよね。あれ恋人できるまで、キョトンとしてたんですが、確かに人も動物だから無臭ではないんですよね。

で、肌の匂いを思い出すことは無いですが、「あ、こんな空気だった」とひんやりした朝の湿度に「匂い」を感じて、そこから記憶が引き出されることはあります。花の香り、あるいは炎天下の車の火傷しそうなドアを開けた時の空気、色んな「匂い」がありますね。懐かしい曲でもいいのですが、匂いや空気感から呼び起こされる記憶って、自分でも意識してない深いところにあるものが、ひょこっと顔を出すように思うのです。

だから、「あとで辛くなる」にとても共感しました。

「君とこなくて良かったと思う」は、結論のはずなのですが、「本当は来たかった、でも」って想いが含まれていて、リアルですよね。

 

思い出すことは何もない故郷には海はなかった なかったのにな

「なかったのにな」は、「思い出すことは何もない故郷」と「海はなかった」にかかるように思います。故郷に海が無いことは変わらないはずだけど、何かがあって、主体が「思い出すことは何もない故郷」の部分を変えられてしまったのかなと受け止めました。「なかったのにな」と結ぶということは、ぽつりとつぶやくイメージがあるので、おそらく寂しい何かだと思いました。

あるいは、嬉しいけれど、とまどっているとか。

そんな、「なかったのにな」の使い方は、清水さんワールドだと思いました。

とても美しいです。

 

ない思い出が懐かしくて波音は誰にとっても優しいんだろう

 「誰にとっても」が心に残りました。疎外感というか、私には懐かしさは感じられないけれど、みんなはここに懐かしさを抱くのでしょう? という歌かな、と僕は受け止めました。

「ない思い出」はどんなイメージなのでしょうか。もしも、この海のある街で育ったらというifなのでしょうか。あるいは、波音を聞いていると、経験しなかったはずのイメージがまるで思い出のように立ち現れるのでしょうか。

だとすると、主体が疎外感を抱きつつ、波音に無いはずの思い出をイメージさせられる状態かもしれなくて、それを「優しい」と呼ぶのかもしれませんね。

綺麗で、なんだか遠くで潮騒が聞こえるような気持になりました。

 

 

返歌

シンプルに海に行けたらいいのにな辛くさせるの避けたいもんな

 

保育園とことこ通うちびちゃんが寂しさを抱く大人になって

 

懐かしさ無いはずなのに波音は魔法をかけることをやめない