RE 思い出すことは何もない故郷には海はなかった なかったのにな
海なし県出身の人間が最近ぱっと思い立って海に行ってきたときの連作です #短歌 #tanka pic.twitter.com/SL6YiKzdwM
— 清水ここに (@shimizu_kokoni) 2018年6月1日
連作「ない思い出が懐かしい」を拝読しました。
連日公開ファンレター書いてます。お恥ずかしい。でも、だって、ええっと、好きな作品みたら書きたいじゃないですか……。いいわけはこのくらいにして。
連作って、短歌が一枚の写真だとすると、写真を組み合わせて、スライドショーまたは動画のようなことができるのですね。とても興味深いです。
3首引かせて頂きます。
あとで辛くなるだろうから潮の匂い 君とこなくて良かったと思う
記憶と香り(匂い)って不思議な結びつきをしませんか。J-POPとかで「君の匂い」みたいな歌詞ありますよね。あれ恋人できるまで、キョトンとしてたんですが、確かに人も動物だから無臭ではないんですよね。
で、肌の匂いを思い出すことは無いですが、「あ、こんな空気だった」とひんやりした朝の湿度に「匂い」を感じて、そこから記憶が引き出されることはあります。花の香り、あるいは炎天下の車の火傷しそうなドアを開けた時の空気、色んな「匂い」がありますね。懐かしい曲でもいいのですが、匂いや空気感から呼び起こされる記憶って、自分でも意識してない深いところにあるものが、ひょこっと顔を出すように思うのです。
だから、「あとで辛くなる」にとても共感しました。
「君とこなくて良かったと思う」は、結論のはずなのですが、「本当は来たかった、でも」って想いが含まれていて、リアルですよね。
思い出すことは何もない故郷には海はなかった なかったのにな
「なかったのにな」は、「思い出すことは何もない故郷」と「海はなかった」にかかるように思います。故郷に海が無いことは変わらないはずだけど、何かがあって、主体が「思い出すことは何もない故郷」の部分を変えられてしまったのかなと受け止めました。「なかったのにな」と結ぶということは、ぽつりとつぶやくイメージがあるので、おそらく寂しい何かだと思いました。
あるいは、嬉しいけれど、とまどっているとか。
そんな、「なかったのにな」の使い方は、清水さんワールドだと思いました。
とても美しいです。
ない思い出が懐かしくて波音は誰にとっても優しいんだろう
「誰にとっても」が心に残りました。疎外感というか、私には懐かしさは感じられないけれど、みんなはここに懐かしさを抱くのでしょう? という歌かな、と僕は受け止めました。
「ない思い出」はどんなイメージなのでしょうか。もしも、この海のある街で育ったらというifなのでしょうか。あるいは、波音を聞いていると、経験しなかったはずのイメージがまるで思い出のように立ち現れるのでしょうか。
だとすると、主体が疎外感を抱きつつ、波音に無いはずの思い出をイメージさせられる状態かもしれなくて、それを「優しい」と呼ぶのかもしれませんね。
綺麗で、なんだか遠くで潮騒が聞こえるような気持になりました。
返歌
シンプルに海に行けたらいいのにな辛くさせるの避けたいもんな
保育園とことこ通うちびちゃんが寂しさを抱く大人になって
懐かしさ無いはずなのに波音は魔法をかけることをやめない