短歌読みます、うたあつめ。

拝見した短歌への、返歌や感想を書く、公開ファンレターです。

RE 曖昧に「そうだよね」ってニヤついてわたしはみんなの一部になった

上記著者さんの自選集から、6首引かせて頂きました。

 

カーテンにくるまれながら思い出す光とともに生まれたことを

生命賛歌というか、命や生を肯定する力強さを感じます。カーテンにくるまれて光を浴びたらそんな気持になるだろうなあという共感も抱きます。

音読してみて、音も心地よいですし、何よりイメージが美しいです。皆様はどんなカーテンをイメージされましたか。僕は、高校時代の教室を思い出しました。カーテンで遊んで叱られたのは中学生の頃なのに、なぜか教室として浮かぶのは高校の教室でした。

 

よく振ってお飲みくださいしあわせが取り残された空き缶の底

この作品は、「しあわせが取り残された空き缶の底」というアイデアが素晴らしいと思いました。例えばココア等は、空き缶の底に残りますよね。

しあわせが取り残されることも、しあわせから取り残されることもあると思います。

手で取って確かめにくい「しあわせ」と、手で触れることの出来る「空き缶」を重ねられたこと、素敵です。さらに「取り残される」ことと、「空き缶」は、例えば、空き缶用のゴミ箱に入れそこねて横に落ちている缶のように、取り残されたり打ち捨てられたりしやすいものですよね。この点でも、「空き缶」とされたこと、魅力的です。

 

曖昧に「そうだよね」ってニヤついてわたしはみんなの一部になった

同調圧力の歌だと思いました。小学生でも、中学生でも、高校生でも、大学生でも、社会人になっても、「みんな」の空気を乱せない時ってありますよね。そこで、どう空気を壊さずに、でも自分も不本意な形で巻き込まれずに済むかを、僕らはたくさん転んで練習するわけですけれど、それでもやっかいなものですよね。

『曖昧に「そうだよね」ってニヤついて』の「ニヤついて」の時の気持ちが、すごくリアルに感じられますし、「みんなの一部」も、こんなに悲しい「みんな」って無いと思いました。

 

ネタバレはやめてください木枯らしがページを捲る推理小説

これは、ユーモアが素敵です。風が本のページを捲る、よくあることですよね。木枯らしが吹く季節に、たとえば暖かいお茶を入れて推理小説を読むことは、イメージしても絵として綺麗ですよね。もしかしたら、屋外のテラスとかベンチなのかもしれません。

そこに、「ページめくらないでよ」とか「風強いな」で終わらせず、「ネタバレ」を組み合わされた点が、素敵だと感じました。

 

「冷えるな」に「ですね、」で返すつなぎたい手をああわたし手をつなぎたい

恋愛あるあるですよね。まだ、その距離感では無いのかもしれない。キャラクターとして、手をつなぎたいと言うイメージでは無いのかもしれない。あるいは、気持の温度っていつも同じ温度ではないから、相手は少し冷めているのかもしれない。

「手をつなぎたい」だけだと、こんな風に色々イメージが広がります。

そこに「冷えるな」と「ですね、」という、例えば上司と部下とか先輩と後輩みたいな、対等ではない関係性を思わせる会話が入ることで、何らかの理由で手をつなげない事情が加わるように思うのです。

もし、片思いの歌だったら、すごくキュートだし、「冷えるな」じゃなくて、鈍いのなんとかしろって背中叩きたくなります。

 

脇役には脇役の生き方がありまばたき一つで総てを語る

これは、ドラマや舞台の脇役の役割に注目した作品かもしれません。あるいは、自分は今は主役ではない、という気持の時に、腹をくくった歌にも思えます。

どちらにしろ、全員主役では物語も人生も社会も回らないですから、強く共感しました。

 

返歌

よく振って味わってよね幸せをその空き缶は家宝になさい

 

一部しかみんなの中に溶けられず時計の針が目配せをした

 

「冷えますね」「そうね」で返すあの人は気付いているし戸を閉じている

 

主役には主役の孤独ありまして苦さを飲んで磨け陰影